ウチら中に広がるコモンスペース


PCの前で意識が飛びそうになった。

首が痛くて、昨日の夜も寝られなかった。最近は夜にストレッチを始めてみて、実際すこぶる首の調子がいい。ところが布団で横になった途端に首に違和感を感じ始める。数分もすると首が痛くなり始め、そのまま1時間は寝られない。その後も寝て起きてを繰り返している。

要するに寝不足で、考え事をしようと目を瞑ると余所事が踊り始め、そのまま向こうの暗闇にジグザグジグザグと迷い込んでしまい気づくと頭がカクンと落ちる。これがまた首にクるという感じだった。

何かに取り憑かれているんだろうか。

=VLOOKUP(A2,$1;$150,7,false)のセルは右下角をスーっと下に引くと、プクプクとその軌跡に兄弟を生み出す。

ぼくはまるでブルーライトで目を覚めさせて欲しいように画面に顔を近づけてみた。少しずつ顔ぶれの異なる兄弟に異常がないかチェックするも、次第に上まぶたが重くなってきた。鼻呼吸に変わり、鼻奥と口の通路から次第に熱が広がる。余所事がまたどこからともなく現れ、ずっと向こうの暗闇に早歩きで向かっていくような・・・。 

「川端くん、ちょっといい?」

目を開ける。心なしか心拍数が高くなり、鼻の奥から喉奥までの広範囲に熱くなってきた。寝てた。

バレてないようだけど正直ドキドキしている。

まるで練習したように「はい」が綺麗に出た。デスク脚に右腿を打つけたが、怒られないか夢中で痛みがわからなかった。

 

主任に近づくとA4一枚渡され、

「このマーカー引いてあるセミナー。研修行ってきてくんないかな」

どうやら毎日机で分析ばかりの僕に気を遣って、せっかくの外出の用事をぼくに譲ってくれたようだった。ただしそのマーカーを引いたという用紙は、マーキング後にコピーしたような代物だったので蛍光色ではなく白黒だった。

更に案内に添付されていた資料も渡され、席に戻された。よかった、バレてない。と呟いてしまった。

資料を見ると、上司は先に目を通して重要箇所をマーキングしてくれていたが、資料の7割が蛍光色に光っていた。まるで読み忘れがないように既読箇所を引いているようだった。

むしろここまでくると、マーキングされていない箇所は何のためにあるのだろうか。

マーキング箇所だけ箇条書きにすればよかったのではないか、しかしそしたらマーキングの意味とは何だろうか。

伝えたい大意がありそれに沿った文書であれば、文書内の言葉すべてがマーキング対象に当たると思うわけだが、一部は対象外になるということはつまり、マーキング範囲を定めるためにまた別の大意が発生してきているわけだ。では、元の大意Aと上司の大意Bはほとんど重なり合わさっていながら、一部だけマーキングされなかった箇所、そのすこしだけはみ出してしまったものは何なんだろうか。

更にはぼく自身がそれを汲み取り始めることは、大意A.Bの両者を見極めなければいけない気もする。またそれで大意Aへの認識をより深められるのであれば、大意Aは初めからNULL A(A以外のもの)を必要としていたのだろうか。今、ナルエーが真っ暗な向こう側に腕を振りステップを踏みながら向こうに行く。